
私のよく行く室戸の釣り場は、干潮時のみ胴長のゴム靴で渡ることが出来る大きな磯で、ほぼ“私だけの釣り場”と言える所である。ある時その磯にきれいな濃紺のイソヒヨドリが来る事に気づいた。目的は私が餌に使っているオキアミである。20m以上離れた岩のてっぺんでこちらを伺っている。私は10mほど先へオキアミを置いてみたが、用心してか反応はなかった。しかし帰りに気付くとオキアミはなくなっていた。次の年は距離が5mほどになり、私はこのイソヒヨドリを“アオ”と名づけた。三年目には手の届きそうなところまで近づいてきた。この分なら来年は手渡しになるかも、と思っていたら突然寄り付かなくなってしまった。誰か別人がこの磯に渡り、アオを追い回したにちがいない。また最初からやり直しになってしまった。

バードウオッチングではないのだが、私を悩ませてくれたのがアオサギである。アルバイトで宿直員をしていた学生から悲鳴がとどいた。「数日前から侵入者警報が多発、ひどい時は10分おきにたて続けに鳴ることもあって眠る事もできない」とのこと。警報の故障や誤作動ではないようなので、一晩付き合ってみることにした。彼の言うとうり午前二時に発報。しかし人影はなし、本館の影にかくれて待つこと30分、出てきたのは長い首のアオサギだった。このアオサギはペンギン舎の上から残りの餌を狙っていたことは知られていたが、夜中にタッチングプールの小魚を狙って館内を歩きまわるようになったようだ。以前からタッチングプールの魚が減っているのを感じてはいたが、これで納得がいった。赤外線センサーを高い位置に変えて問題は解決。このアオサギはその後もしばらく通ってきて、タッチングプールの小魚を堪能していたようだったが、3年ほどして来なくなってしまった。

私が小学生の頃だからもう半世紀以上前の話だが、友人から「チチリン釣をしよう」と誘われた事があった。出身地の鳴門市高島は塩田の島だったので、チチリンチチリンと鳴きながら飛びまわり、水路のメダカや昆虫を狙うハクセキレイやセグロセキレイ・キセキレイがたくさん見られた。「メダカを釣り針に引っ掛けて杭に結んでおけばチチリンが釣れる」と彼が言い出し、二人で何箇所も仕掛けてまわった。結局一羽も釣れなかったが、一箇所だけチチリンの舌と思われる肉片が針にかかっていたのを見つけ、彼が「舌切り雀?」と言ったのを今もはっきりと覚えている。最近冬場になると、毎日のように切符売り場前の砂浜にハクセキレイが現れて、何かをついばんでいるのを見かけるようになった。それを見る度に、若くして(17歳)亡くなった仲よし(悪友)のケンちゃんと、今はもう見られなくなった“塩田(入浜式)”を走りまわっていた遠い昔を思い出すのである。

10年ほど前、桂浜で飼育員をしていた娘(76実習生③嫁候補一番のポン太ちゃん・162失恋⑪ポン太)が、巣から落ちたドバトを二羽育てたことがあった。無事育てあげたあと、水族館裏の駐車場の屋根に餌を置いて放し飼い状態にしいてた。その娘が急に退社することになり「ポッポ達をお願い」と私に託してニュージーランドへ行ってしまった。しばらくは餌を置いていたが、一ヶ月ほど行方不明になったのを期に餌を置くのをやめて(忘れて)しまった。ところが一年余りして、切符売り場の前の砂浜で餌をついばんでいる二羽のドバトに気付いた。聞くと少し前から食堂のおばちゃんがかわいがっているとのこと。おばちゃんは“つがい”だというが、私にはどう見てもあのドバトの兄弟に見える。10年を過ぎた今も通ってくるポッポのことをニュウジーランドに知らせてやろうかな,と思いながら眺めているこのごろでなのある。

桂浜に巣くうハシボソガラス。しわがれた声で鳴くので“ガーコ”と呼ばれている(呼んでいるのは私だけ?)。10年ほど前から3~4羽がなわばりにしているようである。観光客が食べ残した弁当などをゴミ箱から引っ張り出し、お互いに取り合って撒き散らす様を私はウオッチングしていた。しかし見かねた桂浜の清掃員が、ゴミ箱に金網のふたを取り付けた。すると彼らは水族館内の餌を狙い始めた。最初は食堂係りのおばちゃんがペットにしている、ハト用のパンくずや煮干しを横取りしていたが、次にペンギンやアシカ用のアジを盗み、ついにはイルカ用のサバまで狙われたので、給餌バケツはふた付きのクーラーボックスに。そしたら今度は外水槽の生きた小サバや、タッチングプールの小魚を食べるようになった。水槽に網を張ったり、小魚を移したり。ガーコとの戦いは今も続いている。

切符売り場から太平洋をながめていると、右手200メートルほど先の磯の周りで誰かが泳いでいるように見えることがある。桂浜は遊泳禁止だが、知る人ぞ知るサザエ(90磯採集⑤サザエフィーパー)を狙って、素潜り漁をする人が時々現れる。私の物ではないのだが“私の漁場”を荒らされるのは気分が悪い。そこで双眼鏡でのぞいてみることになるのだが、回りに舟も浮き輪も無く、水しぶきだけ。しかも息が長く双眼鏡ではなかなか追い切れなかった。それがウミウであることがわかり一安心。以前は全く見かけなかったウミウだが、ここ数年数がふえて、竜宮様(桂浜のシンボル)から続く磯の上に並んでいる。羽根を少し広げているのは、恋のディスプレイか、単に乾かしているだけなのかは不明だが、ウタロウ達はサザエは獲らないので私の敵ではなく、双眼鏡で楽しむ対象なのである。

10年ほど前から、毎年一月になると一羽のカモメ(ウミネコ)がやってくる。四月にはいなくなるが、その間は毎日のように桂浜のシンボルになっている大岩の周りを飛んで、てっぺんに止まっている。カモメは冬場に時々数羽の群れでやってきて、沖合いに浮かんでいることがあるが、このカモメは別行動のようである。そこで私は彼を“まこっちゃん”と名づけた。お魚を愛し、私と共に桂浜で働き、釣り勝負を繰り返していたが、10年ほど前に病で早世した相棒(釣十番勝負317~327・釣勝負番外編348~363)の名前である。亡くなってからも桂浜水族館の行く末を案じ、カモメに乗り移って毎年様子を見に来ているように思えてならないのである。

桂浜水族館の切符売り場(鳥カゴより301~316)から太平洋を眺めていると、いろいろな鳥をよく見かける。子供のころメジロやウグイス・ヒヨドリなどを追い回した事もあり、鳥類にも興味があったので、入館者の少ない冬場の切符売り場は、私のバードウオッチング場になっていることもあった。目の前で砂浴びをするスズメや、沖の波間に浮かぶカモメを双眼鏡で眺めるのは退屈しのぎにちょうどいい。それにロリコンの私(315鳥カゴより⑭ロリロリウオッチ)がカミングアウトする以前は、ロリちゃんを双眼鏡でのぞいているのを見られて「何を見てる?」と聞かれた時「あそこのカラス」などと、うまく言い訳に使えていた。今回はその切符売り場からのながめを中心に、私のバードウオッチングについて書いてみたいと思う。